ユーザから求められた要件を満たすために、十分な性能(質)を出すことは、開発においては最重要なことの一つである。しかし、いくら性能をあげても、要求を取り違えていたとしたら悲劇である。この悲劇について映画を例として考えてみたい。

ハリウッド映画「バトルシップ」はどのように作られたのかを解説したムービー – GIGAZINE

このバトルシップという映画は、巨額の費用がVFX(Visual Effects)に費やされており、その映像美とリアルさは圧巻である。しかし、制作に220億円も投じたにも関わらず、57億円の興行収入しか得られていないという悲惨な結果に終わっている。

映像の専門家にとっては興味深い作品

映画の視聴者が映像の専門家ばかりならば、ほとんどの視聴者がこの映画を見に行くだろう。そして、当時の他のSF映画と比較してハイレベルといえる映像技術に、視聴者は興奮したに違いない。例えば、私は学生の頃から3DCGなどを使った制作を趣味で楽しんできた身であるが、このGigazineの記事を見て、映画を実際に見たいと思ったクチである。

視聴者は千差万別

しかし、実際の視聴者はほとんどが映像の専門家ではなく、映像美以外のものを求めている。ストーリーに期待する人、俳優の演技に期待する人、原作が好きで観る人など、千差万別である。そのため、多くの映画では、どんなユーザ層を狙って作るか軸を定めている。特に、広告を見ればどのような層を狙っているかは大体分かる。例として、借りぐらしのアリエッティを挙げてみよう。

 借りぐらしのアリエッティ予告-Youtube

 

The Secret World of Arrietty Official Trailer

このように映像を見比べると,日本と海外ではCMで流す予告映像が大きく異なることがわかる。日本版では、世界観やストーリーを匂わせる演出に終始していることに対して、米国版の場合は冒険やスリルを匂わせる演出をしていることが分かる。予告だけ見ると、まるで別作品に見えるから不思議だ。

要件の前に要求をよく考えること

以上の通り、映像の美麗さやリアルさを追求するという「性能要件」を満たすことは重要なのだが、それ以上に、どのような視聴者のどのような要求を満たすのかを上手く捉えられないまま性能を向上させても、要求がずれてしまっては視聴者を満足させることはできない。

世の中のシステム開発においても、似たような悲劇が多々起こっているように思う。開発においてもユーザの要求を適切に捉えることが重要である。しかし、ユーザは自分自身の本当の要求やニーズを言語化できないものだから、我々が適切に汲み取る必要がある。そのために人間中心設計などの手法が体系化されてきているので、ぜひ活用して欲しい。

 

徳間アニメ絵本31 借りぐらしのアリエッティ

徳間アニメ絵本31 借りぐらしのアリエッティ