日本企業はイノベーションに対する長期的な投資や環境や文化の醸成を軽視しているという調査結果がでている。これは、企業に属する研究者の私も実感として感じているところなので少し語りたい。

イノベーションは「闇研究」の成果 根性論に縛られる日本の経営者 – Japan Real Time – WSJ

研究部門は事業部門の深い理解が必要

研究部門は部門自体がお金を稼ぐことはあまりないので、基本的に事業部から予算を(投資して)もらって活動する。そのため、創出した成果をもって事業部に対して貢献をしていくことが必要である。しかし勘違いしてはいけないのは、1年予算を割り当てたらその分のアウトプットが出るわけでは無いという部分だ。つまり、開発的な考え方で、ある人月を掛ければそれに見合う品質の成果物ができるという考え方は間違っている。研究は基本的に投資であるから、人月で成果物を予測することはできないし、最悪原本割れを起こすこともある。さらにいえば、予算を出した事業部に直接は貢献しないような成果が出ることもある。だからこそ事業部門と研究部門を切り分けているのだが、理解されないことも少なくない。

こういった視点の違いから、投資しても私たちに関係する成果物がでないなら予算を出す意味が無いのではないか、であれば、自部署の開発や営業にもっと予算を回せという声も出てくる。確かに、それはある視点において正しいが、自分達の今の事業が以前出された研究成果によって成り立っていることを忘れてはならない。しかしながら、特に不景気になると短期間ですぐ役立つ成果を出せ!という風潮が強まるのは当然なので、経営層(中間管理職)が研究の性質を正しく理解していることが必要不可欠である。

研究部門でも対立する環境と文化の醸成

上述の通り予算問題だけでも理解が得られないのだが、より難しいのは環境や文化の醸成である。これらの重要性については、以前に少し記事を書いたので参照いただきたい(良い仕事がしたいなら場所にこだわること|ヒト中心思考)。

研究者は基本個人プレーなので、一部のS級人材は環境や文化に左右されず個人で活躍できる。そのため、環境や文化の醸成に予算を割くことを無駄であり、それよりは機材購入や実験費などに予算をもっと回せという人が研究部門の内部に発生する。また、S級の人は成果を出せるので、比較的昇進も早く発言力があることも多いのだけど、優れた研究者が優れたマネージャになるとは限らない。実際のところ、社内には環境や文化に影響を受けて研究の善し悪しが変わる普通の研究者の方が多いので、S級人材の理屈を押しつけられると、普通の研究者は必要以上に疲弊してしまう。

多くの人材の能力が環境の善し悪しに左右されることを理解した上で、研究環境や文化の醸成をしようとする動きは見られるものの、上記の要因もあり、なかなか上手く整備を進められない。さらにいうと、予算等が削られたために当初の整備計画が縮小することで、かえって中途半端な改変になって逆効果となるケースさえ見られる。

以上の理由から、実感としても日本企業は研究部門に対する投資や環境整備を軽視しすぎだといえる。もしも海外企業と今後も第一線で戦うつもりがあるのであれば、早急に研究部門のあり方を正しくリデザインすることが必要であろう。