研究職そして博士に在籍する人間として,なぜ就職できない大学院生が生まれるのか考えてみたい.発端となったのは,東大大学院の学生のうち50%近くが就職できないという記事だ.
高学歴ワーキングプア問題・・・東大院卒就職率56%、京大院卒は非常勤講師にゴミ収集バイトを掛持ち (類似記事:ハムスター速報)
この問題は,いくつかのステークホルダ(利害関係者)の思惑が重なった結果生まれた状況である.決して大学院生だけの自己責任とは言い切れない部分がある.今回は,大学,企業,大学院生というステークホルダを取り上げて考えてみたい.
大学は人と予算が欲しい
大学はかなりの勢いで予算を削減されており(7年間で -830億円)お金のなさに苦しんでいる.また,少子化にともなって十分な学生を集められなくなっている.予算と人員不足が続けば,最終的には大学運営は破綻してしまうので,一人でも多くの学生を確保しようと躍起になる.しかし,現実問題として修士や博士に標準で割り当てられる研究予算はとても少なく,外部から研究予算を取れなければ,まともに研究ができるような状況にはない.
また,今の大学は高齢の教員が役職を締めており,若手が入る隙がないのである.よって大学院の人を増やしているにも関わらず,大学の職員として残れる若手がすくないという問題も抱えている.要するに,研究者になりたいのにポストがそもそも無いのである.
企業は社畜を求めている
企業は,社畜として一生を会社に尽くしてくれる(しかも用済みになったら早期退職してくれるような)人材を捜している.ゆえに学部あたりの新卒を一括採用して,企業で育てて染め上げるほうが都合が良い.ゆえに博士のように中途半端に専門性のある人材は必要ないのである.そして,企業にいる若手は同様の社畜精神を植え付けられているので,高学歴は使えない〜とか,大学で遊んでいた奴らは〜,といった言葉を吐くようになる.
一方で,大学院生自身もそう言われてしまう,負の部分がある.
大学院生に就活の敗走者が増えてきた
大学院も,学部で就職が決まらなかったから院に逃げてきた人が最近増えている.そんな人は大体研究室にいてもまともに研究しないため,研究によって身につけられる専門性,文章力,プレゼン力などが向上しない.その結果,2年も修士をやったにも関わらず,学部生と大して変わらない人材のままなので.企業から見れば年功序列を乱してまで入れたいと思えないのである.
そういった人材に限って,修士は学部に比べて就職率は良いなどという言葉に踊らされる.結果,就職活動を軽んじて,妙なえり好みをして就職に失敗するのである.
負の連鎖を断ち切るために
今回は,主たる3つのステークホルダを説明したが,実際にはさらに多くのステークホルダが存在し,複雑に絡まっている.それぞれの望みが絡み合った結果,不幸な大学院生が大量生産される時代となってきているように思う.
このような負の連鎖を断ちきるためには,連鎖の因果を明らかにして,何を変えるべきか,どのような順番で変えるべきか,変えたらどうなるかを検討しながら仕組みを作らなければならない.そのような仕組み作りこそ行政の仕事だと思うのだが….悲しいことに,大学予算を淡々と切り続けてきた今の行政には期待できないのである.
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