サービスに限らず,何をするにしてもデザインが重要です.デザインにはコストが掛かりますが,デザインにコストを掛けないと,お金では換算できないトータルのコストが上がってしまいます.今日はオフィスデザインの事例をもとに,デザインとコストの関係を考えてみます.

私はとある仕事で,オフィスのオープンディスカッションスペースをデザインする機会がありました.私の専門は建築系ではなかったのですが,使いやすい空間作りは,まさに人間中心設計の考え方が大事ということで,私が矢面に立つことになったわけです.

当時,オープンディスカッションスペースを作るためには,部屋の改修費としてはかなりの予算がかかることがわかっていたので,各所から予算を使いすぎであるというクレームを言われていました.残念ながら,我々のチームに与えられた予算内でやっていたにも関わらず,です.予算は最初からかなり抑えてデザインしていたので,実際は今のオフィスにおいてある什器とたいしてコストが変わらないものを選んでいました.しかし,華美な什器を導入する必要は無い,とクレームがきたのです.

オープンスペースのコミュニケーション活性化を目的とした什器なので通常のモノよりも華やかなものだったので,そういったクレームがきたようでした.そして,既存資産を流用して予算を削減せよ,との指示をもらいました.しかし,それらは創ろうとする空間(オープンディスカッションスペース)の機能にそぐわないので再利用することは困難でした.オープンディスカッションスペースの必要性は認識しているのに,その空間に必要な機能を満たす什器を買う予算は与えられないというのは,なんともおかしい話です.

このクレームの根本は,必要とされているオープンなディスカッションスペースのデザインをしてこなかったことです.先延ばしにしたことで,什器の買い換え時期に適切な買い換えができず,結局いままでと同じような什器を選んでしまったのです.しかし,結局必要なのでデザインするはめになり,什器の買い換えも必要になり,結果として余計なコストがかかったわけです.

言い換えれば,再利用して予算削減せよとクレームを付けてきた人達は,過去のデザインに対する怠慢を今の担当者に押し付けてきたといえます.再利用せよといわれた高級感漂う什器を見るとうんざりしてしまいます.おそらく,当時は予算繰りに余裕があったのでしょう….しかし,再利用せよといった彼らとしても,高値で買ったは良いけど使いにくく,さっさと処分したいというのが本音のようでした.つまり,自分達の過ちを再利用というカタチで清算したかったのです.

最近の企業はこのあたりのスペースのデザインの重要性をよく理解しており,空間デザインにはそれなりの初期投資をしています.しかし,旧態の大企業はオフィスを従業員を格納しておくだけの箱と認識している人が,いまだにいるようです.

確かに,空間の効果というのは直接的に数値で測ることは困難ですが,間違いなく仕事の質に大きな影響を与えます.なので,注意してデザインにコストを支払うべきです.そうしなければ,お金が掛かることはもちろんのこと,お金では測れない機会損失が出てしまったりと,トータルコストがあがってしまうのです.

今回はオフィスのスペースデザインという事例をもとにお話ししましたが,どんなデザインも同じことがいえます.適切にデザインにコストを払うことで,トータルコストを下げることが可能となります.小さい作業だとデザインを忘れがちですが,大切にすることをオススメします.