ねんきんネットのユーザビリティが本当にひどかったので、その格闘記録を残しておきます。少しでもみなさまの参考になれば幸いです。

サービス開発では、0.1%の苦情を恐れて、残り99.9%のユーザにとって使いにくくしてしまうということが良く起こります。ねんきんネットもその一つといえるでしょう。

ねんきんネットはぱっと見期待できる

掃除をしているとたまたま年金手帳を発掘したので、いい機会なので年金の納付状況を調べようと思い立ちました。そこで少し調べてみると、ねんきんネットというシステムを使って納付状況を調べられることがわかりました。おお、政府が電子行政を進めているのか、素晴らしいことだなぁと思いながらサイトにアクセスすることにしました。今思えば、これが悲劇の始まりでした…。

まず、郵便で届いた年金定期便には、アクセスキーを用いることでねんきんネットに簡単に登録ができると書いてありました。簡単ならと、愛用のnexus7で作業をしてみることにしました。サイトにアクセスしてみると、しっかりとデザインされたトップページが表示されて、とても期待できました。新規登録の方はこちらと誘導されたのでリンクをクリックしました。ここまでの体験はなかなかよかったのです。ここで下手に期待値をあげてしまうのが、逆によくないかもしれません。

問題1:年金番号があるのに新規IDを取得する必要がある

新規登録には新規IDの取得が必要になるとのことでした。年金番号は固有のはずなのに新しくIDを登録する必要がある、というのは疑問だったのですが、仕方がないと思いながら先に進むことにしました。先に進むと、 アクセスキーの他に、氏名、生年月日、性別、ひみつのパスワード、メールアドレスの入力まで求められました。

ここで特に困ったのは、メールアドレスがフリーメールでは登録できないことです。自分はnexus7を使うためにメインアドレスはGmailなので拒否されてしまいました。次に、iCloudのアドレス(@me.com)なら良いかなと思って登録をしてみたのですが、これもまた拒否されてしまいました。なぜこういうことになってしまうのでしょう…。

問題2:新規IDはランダムな英数字を勝手に割り振られる

メールアドレス問題でだいぶ疲れてしまったので少しクールダウンをしてから、ほとんど使わないキャリアメールのアドレスを登録することにしました。確認画面が終わり無事登録が済むと、無事にケータイに新規IDが到着しました。しかし驚いたことに、新規IDは年金番号とまったく関係のないランダムな英数字が割り当てられるので、この上なく覚えにくいです。しかも、このメールが送られてきたのはケータイなので、nexus7に一字一字打ち込む作業が必要となってしまい大変面倒でした。

問題3:ログインできたのにサイトを自由に閲覧できない!?

それでも諦めずに、nexus7にランダムIDと設定したパスワードとを入力してねんきんネットにログインしました。無事ログインできた!と思ったら、今度は画面トップのナビゲーションメニューがクリックできない状態に陥りました。ここまで手間と時間を掛けて、まだ自分の年金納付状況をチェックができない絶望感は半端のないものでした。

さすがに続けられないと思って休憩し、しょうがないのでここでPCを起動しました(最初からPCでやれば良かった)。改めてランダムなIDとパスワードを入力してログインしたのですが、またも荒波が私を襲います。

 「先ほどまでお使いだった端末と違う端末からログインされたので、秘密の質問を入力してください」

たかだか年金の未納状況を調べたいだけなのに、ユーザビリティ度外視の過剰なセキュリティを見せつけてきます。こんなシステムに血税が大量につぎ込まれている思うとうんざりです。ここまでくると、怒りよりも専門家として最後まで見届けようという気持ちが出てきました。負けじと問われた秘密の答えを入力してログインします。

これによって、先ほどnexus7で見たログイン画面に入れたのですが、やはりメニューバーが動きません。

問題4:質問に答えなければ(答えても大して)サイトは使えません

何が起きているのか?と思ってよくよく見回してみると、謎の質問に答えなければ先に進めないそうです。モーダルな質問項目を通常画面と同じように作っていて気付きませんでした…。そもそもそれらの質問が必要なのかも不明であり、もはや答える意味がわからない状態です。

それでも親切心で質問に答えると、ようやく自由にウェブサイトを閲覧できるようになり、自分の年金未納状況を調べることができました。実は私には80万近い金額が(学生の頃の支払い猶予によって)未納であることが分かり、さらにどれぐらい年金の年額が引かれるのかも見えてきました。

これだけ年金支給額が引かれるのは微妙かなぁと思い、振り込んでも良いかなと思いました。そこで、どうすれば振り込めるかを調べたところ「各地域の年金の相談窓口にお問い合わせください」というメッセージが表示されます。ここまで過剰にセキュリティを求めているにも関わらず、システムからはほとんど何の依頼もできないとのことです。要するに、未納かどうかを調べられて、窓口に提出できる書類のフォーマットだけが入手できるシステムにこんな面倒を掛けられたわけです。なんというムダでしょうか。ほとほとあきれ果ててしまいます。

教訓:ただ電子化すれば良いというものではない

電子化は、うまく取り組めば驚異的な効率化を図れる手段です。ですので、行政の電子化を進めることはとても重要なことだと思います。しかし、あくまで電子化は手段です。適切な目的をもって電子化をしないと、むしろ電子化前よりも不便になってしまいます。

例えば、デンマークではBorger.dkという素晴らしい電子政府が国民に愛用されています。Borger.dkを見ると日本の電子政府戦略がいかに労力の無駄遣いをしているかが分かると思います。こうした実例があるのだから、できないはずはないのです。