なぜ、ある時代を謳歌した企業が傾いていくのかを、持続的市場とと破壊的市場の二つを対比してかたりながら、その実態を明らかにした本。なんとなくそうだろうなーと思っていたことを、事例ベースで論理的に説明しているいい本で、頭をクリアにできる。

ディスクドライブ市場はなぜ激戦だったのか

著書の中なかでは、たとえば90年代のディスクドライブ市場を例にあげて、その対比を行っている。最初は8インチドライブなどの大きなドライブを扱っていた持続的市場が、5インチ、3.5インチと小さく、軽くなったことで、投入できる市場がデスクトップ市場という新しい市場、つまり破壊的市場に生かされた。やがて、3.5インチはアダプタをつけてワークステーションに使われるほどに持続的市場を席巻した。 最近ではメッセージングサービスのLINEとかがそれに当たるといえる。そのビジネスの戦略はディスクドライブのものとほとんど同じである。

 イノベーションのジレンマって何?

持続的市場は、既存市場のことで、技術は線形に良くなっていくもの。やがて、よくなりすぎた性能は誰にも求められなくなる。そこに破壊的市場ができる隙が出てくると、持続的市場はそこを突かれて(自ら明け渡して)しまう。そして徐々に市場が取られていき、最終的には転覆してしまうという構図である。

なぜジレンマは起こる?

さて、あとから聞けば当たり前のことですが、しかし、この当たり前をなぜ防ぐことができなかったのか。マネジャーの能力か、と言われると否である。どちらかといえば、優秀なマネジャーは、持続的市場にいる企業にとって、非常に合理的で正当な選択した結果、失敗するといえる。

ある主流技術で成り立つ市場は、一般化が起こることで、競合が増えて、価格競争が起こり、旨みが減っていく。そのため、競争の少ない高度な市場に移行したがる。移行すると採算性の低い部門は切り捨てられ、増益する。それを繰り返していくうちに、下位市場に穴が空いていく。一方、その下位市場を埋める新しい技術は、大抵、持続的市場にいる余裕のある企業が作り出す。しかし下位市場を埋めるということは、既存市場を喰うことに繋がるので、既存市場を大切にする企業は、新しい技術を簡単には採用できない。

もう少し詳しく述べると、「市場規模」と「顧客」が大きな要因となっている。既存市場は熟していて規模が大きいため、穴の空いた下位、もしくは全く新しい市場の儲けは、とても小さい、旨味の少ないものに見える。また、大抵の場合、既存市場を持つ企業の営業担当は、まず始めに技術のフィードバックを既存顧客に求める。もちろん持続的市場にいる顧客は、既存市場をものさしにして判断するので、新しい価値を正しく評価することは難しい。これらの結果、マネジャは資源を持続的技術開発に割り当てる傾向が強くなる。

「顧客」の定義に気をつけること

顧客の意見に耳を傾けよ、とよく言われるけど、その顧客が既存市場にいる顧客なら、破壊的イノベーションを理解することは難しい。逆に言えば、技術的には目新しくないことでも、その適応領域を変えたり、与える価値を変えることによって破壊的にはイノベーションを発生させることもできるといえる。しかし、多くの大企業ではそれをうまく採用できないのが現状で、イノベーションのジレンマにまさに陥っている。

それらをどのように脱するのかは、本書をお読みいただければ幸いである。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ
著者クレイトン・クリステンセン