風立ちぬに関しては賛否両論あるものの,私自身は想っていたよりもずっと良い作品だと感じられた.私は妻と夫の立場どちらにも感情移入できたので大変心にしみた.結婚したての人とかにとっては,かなりシリアスに響いてくる作品だと思う.逆に,コクリコ坂とか耳を澄ませばみたいな青春系の作品が好きとか,紅の豚みたいな渋い感じの作品が好きな人にとっては,合わない作品だと思う.
正直全体のストーリーにはあまりのめりこめなかった.というのも,夢の世界と現実世界が混じり合い,どんどん時代も進んでいくということもあって,シーンの切り替わりがめまぐるしすぎる.また,映像としては派手なシーンも少ないし音響も微妙だと感じた.
しかし,人の心がありありと伝わってくるシーン描写は素晴らしいの一言である.私は心をすっかり奪われてしまった.一番心が揺さぶられたのは,夢を追うために病気の妻をおいて働き続けることを決意する夫と,死の直前まで仕事を続ける次郎に寄り添いたいと決意した妻とが,二人で一緒に生活する場面である.死ぬことが分かっている妻と,妻が死ぬことを分かっている夫.夫は大切な妻が死ぬと知りながらも,自分の夢を叶えるために働き続ける.一方の妻は自分が死ぬことが分かっていても,最後まで好きな人に寄り添いたい一心で,わがままも言わずに夫の帰りを待つ.
誰だって自分の夢を叶えたい,何かを実現したいという気持ちがある.作中の夫は,大切な人が死んでしまうと分かっていてもなお,自分の夢を叶えるために,無茶とも言えるようなハードワークをし続ける.この夢に向かってひたむきな夫の姿は,研究者として生きている自分に重なるところが多く,大変心を揺さぶられた.またハードワークをしながらも,妻をひたむきに愛し続ける想いが滲んでいることが分かるようにシーン描写されていて,とても良かった.
好きな人を持つ人なら誰だってその人の前では格好良くありたい,綺麗でありたいと思うわけだけど,正直そんなに強くは生きられない.たまには文句だって言いたくなる.しかし,作中の妻は病気に侵されながら,限られた時間の中で精一杯夫を愛するために行動する.その幸せと切なさを見事に表現していて,とても心にしみてきた.
この作品を通じて,プライベート(妻)と仕事(夫)と,両方の視点から自分の生き方を考えさせられることになった.人として家族を大切にする気持ちは十分か?そのために十分な行動はとれているだろうか?,また研究者として,自分が何に替えてでもやりたい研究をしているか,それは世の中に本当にインパクトを与えるような仕事をできているだろうか?その仕事に全力で取り組めているか?これらの問いが,作品を見終わってしばらく経ってもなお自分の中に渦巻いている.
もちろん風立ちぬは,偏った視点から描かれた美化された妻や夫の姿であるから,誰にとっても理想的な姿でない.とはいえ,自分がここまで心動かされたという事実から,素晴らしい上手く映像表現がされていたといえる.とくに,結婚とか,子供ができたとか,大きな仕事を抱えているとか,そういう岐路に立っている人にはぜひ見て欲しいと思う.きっと自分を省みる良い機会になる.
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